チミケップ湖は北海道津別町の山の中にある小さくて静かな湖、太古の地滑りで山が崩れ、沢が堰き止められてできた湖と聞く。津別町から約35km、北見市から約40km、陸別町から約50kmの位置にある。湖の周辺は未舗装のダートで、北見市からのルートはダート道の小さな峠を越えるため、最も道路事情が良くない。
チミケップ湖の位置(国土地理院地図を使用)
この道路事情は約60年前とほとんど変わらない、高度成長期も無縁な別世界であったかのように山奥の林道の世界を維持している。この間、林業の衰退とともに湖畔の建物が消えていき、今や人影を感ずるのは小さなプレミアムなホテルが一軒のみとなってしまった。現在ではキャンプ場もあるが、シーズンオフでテントを見かけたことはない。
チミケップ湖
わたしが最初にこの湖を訪れたのは、昭和42年だったか、免許を取ったばかりで、父のバイク(田中工業のタス・バンガード)でバスやトラックの後について、文字通り後塵を拝し、ダートの猛烈な土煙を浴びながらやっとの思いでたどり着いた記憶がある。もう50年以上昔のこと。湖畔に出るとそこは別天地で、岸辺の波音が聞こえるだけで、人影もなく静寂そのものだった。
湖畔には慰霊碑が建っていて、冬季間の造材作業で、凍結した湖面を横断していたトラックが氷が割れて湖に沈んだという事故があった。私が小学生のころのことで当時は知らなかった。湖畔の慰霊碑を見て、人に聞いて知ったことだ。そんな人間の営みをすべて包み込んで、この湖は存在し続けてきたのだ。
峠を越えて、森から湖畔の道に抜け出してほっとしたところに小さな小屋が建っていて、立ち食いのインスタントラーメンを食べることができた。カップ麺が登場する前のことで袋麺だった。何よりも人と会話できることがうれしかった。しかし、今その場所は低木に覆われて痕跡すらなくなっている。
私がこの湖を撮りに行くのは紅葉の時期、早朝の湖面は朝霧が立ちこめ、朝日が当たった紅葉が凪の湖面に反射して幻想的な風景になる。日の出とともに気温が上がり、風が出てくるとこの景色も終わりとなる。街から距離があるため、泊まり込んで撮るのがベストなのだ。
早朝の紅葉